2015年12月29日火曜日

これでいいのか大津のいじめ対策(その2)

 率直に問う, 「大津の子どもをいじめから守る委員会」と「いじめ対策推進室」は本当にPDCAをまわしているのか?誰が回しているのか?責任者は誰か?目的や目標、成果指標は明確か?事業評価の結果はどうなっているのか?


 自称「大津モデル」を検証するにあたっては評価基準が必要である。一般に事業の評価はISOなどで規定されている国際的な要求基準に従って進めなければならない。自己流の或いは恣意的な評価方法は国際的に通用しない。つまり「井の中の蛙」方式では駄目である
 まず事業の目的、目標が明確に提示されているか、これには二つの観点が必要である。一つは要因系、すなわちいじめの要因を深く探ってそれに対する方策の提示である。二つ目は結果系、すなわち対策の実施によってどのような結果、良い状態を目指すのか、あるべき姿、ありたい姿の明示である。これらが成果指標となる。膨大な予算を投じて取り組む事業であるから、これらを公表して取り組んで初めてPDCAを回すことができる。(参考資料:ISO9001 要求事項 品質目標3.2.5)

 2013年4月、市長部局に「いじめ対策推進室」され、それと同時に、教育委員会事務局には「学校安全推進室」が設置された。全国に先駆けて自治体単位における二元的いじめ対策の実施体制だった。そもそもこれはすべて越直美市長の「もう教育委員会や学校にいじめ対策を任せておけない」との勇断的決断から始まったことである。
 このふたつの新組織がどのように連携し、また棲み分けをしていじめ対策を進めていくのかに関係者の関心が集中した。メディアからの質問もこの点に集中したし、市議会の教育厚生常任委員会でもこの点に議論が集った。教育構成常任委員会におけるいじめ対策推進室長の答弁は要領を得ず、きわめて不明瞭なものであったと記憶している。

 あれは確か2013年6月頃だったと記憶するが、私は新聞社の取材に応じて「守る委員会」・「推進室」と「学校安全推進室」の連携の在り方について答えた。新聞には、「数か月の実践、経験を積んだのちに連携と活動領域の棲み分けについて話し合うべきだ」という私の見解が報道された。そしてその言葉通り、同年7月頃、「守る委員会」・「推進室」の幹部と「学校安全推進室」の主要メンバーで話し合いの場を持った。
 話し合いは難航した。議論がかみ合わないのである。そもそも「いじめ」に対する認識からして食い違っていた。2月19日に成立した大津市のいじめ防止条例にもとづいて編成された市長部局のこの組織は「いじめ」に対処するものである、したがってその他の人権侵害には対処しないと「対策室」側は公言した。現にその後実際に「いじめ」以外の人権事案も生じたのだが、そのときも「対処しない」と明言した。見事なまでの厳格な対処であった。(「いじめ」以外の人権侵害の一例をあげると、家庭における虐待や暴力がある)
 もっとも困ったのは何を目指すのか、どのような成果指標を掲げるのかという点であった。私は活動のプロセスやアプローチは異なってもゴールについては共通の評価指標を設けて両者間で共有すべきだと主張したが、受け入れられなかった。共通の評価指標とは、扱った事案件数、事案解決に要した日数などである。やりこめあいのための評価指標ではない。本気でいじめ対策に取り組むのなら、改善点を常に探らなくてはならない。自らの力量を定量的に表現しあうほうが課題を共有しやすい。

 「推進室」曰く、「カウンセリングとはそのようなものではない、時間をかけてこどもの回復を図るものだから、いつまでにこのような状態にするなどといった目標は掲げられない」。この主張は今でも忘れられないが、「推進室」のある専門相談員の主張であった。他の人の発言はなかった。このとき私は「この組織はこの人が主導している」とはっきりわかった。いまもってなおこの人物が実質的に「対策室」を仕切っていると聞くのだが・・・。

 「いじめ対策大津方式」の正確な予算額がまだ判然としないが、それはともあれ、一定額の予算を投入して行う、しかも市長ご自身が著書でも「大津方式」「大津モデル」と胸を張るいじめ対策推進事業がこのようなことでよいのであろうか。市長部局からはっきりと「学校・教育委員会とは連携しない」との決別宣言がなされたのである。
 その後、「推進室」の実際の活動場面においても、学校に対して「連携しない」との明言がなされたそうだ。上述した専門相談員と同一の人物がそう言ったのだという。学校関係者から証言的ニュアンスで出てきた話だから、まず間違いのない事実だと私は受け取っている。
 さらに、「推進室」のこうした方針をその上位組織である「守る委員会」はどのように認識しているのだろうか。とりわけ、委員長はどのように認識しているのだろうか。毎月2度ほど開催されているといわれる「守る委員会」の議事録は公開請求しても守秘義務を盾にして公開されない。我々からすれば全くのブラックボックスの組織である。いわんや個々のケーススタディーを通してPDCAがどのように回されて改善されているのか、などは全く想像すらつかないことになってしまっている。
 これが越氏市長を一躍有名にし、越市長自身も誇るところの「大津方式」の実態である。公開を渋るところは必ず停滞、後退、腐敗が進行するのは世の常である。

 さらに付け加えるならば、いじめ問題の現場、いわば主戦場である「学校現場」の校長先生たちは、「推進室」の相談員たちの学校における活動をどのように見ているのか。
 私自身、校長たちの声を直に聞いているが、「2度手間」、「向こうからの報告がないので何をしているのかわからない」、「連携の取りようがない」など、全般的に歓迎ムードは感じられない。はては「迷惑だ」とまで言い切る声もある。
 教員の中にも「対策室の人たちが学校に何をしに来ているのか、何をしたいのかわからない」という声があり、こちらも残念ながら肯定的な評価に出会ったことがない。
 というのも、その学校に出向いた事案の詳細がその学校に充分に伝えられないからで、「対策室」が来た限りは何かがあるのだろうが何があるのかはよく分からないという状況が生まれてしまうからだ。
 このような学校の声が「対策室」や越市長に届いているのか。届いているのだとしたら、なぜ学校との積極的な情報共有や連携強化による問題解決に背を向けたがるのか。理解に苦しむ。学校との連携を拒む大津モデルが本当に全国標準モデルになれるというのか?

 今月初めに開催された市議会本会議で、この問題に対する藤井哲也議員の質問に答えた市民部長、教育長、教育委員長の答弁はどうであったか。具体性は一切なく、オブラートにくるんだごく一般的、抽象的ことばで彩られた空疎なものであった。ない袖は振れないのである。

 私は、大津モデルの実効性を大いに疑い、あれは壮大な虚構だと考えている。私が教育長を務めていた間にも、重篤化したあるケースが教育委員会の「学校安全対策室」に下りてきた。本当に連携を必要としないだけの力量があるのならこのような回し方にはならなかったはずである。

(滋賀県のまち風景、今日は近江八幡市の尾賀商店です)






4 件のコメント:

  1. いじめ対策室は、相談が寄せられた事案を一大事につなげないためにどのような防止策を取っているのでしょうか。と聞いても、対策室メンバー以外は誰も知らないんですね。これはどう考えてもおかしいです。手に負えないまでになったとき、どうにでもエクスキューズできる仕組みではないですか。
    かたや、早期に詳細を知らされていなかった学校や教育委員会は、事情通の程度において対策室に後れをとってしまいます。この状況で上記の一大事が生じたら、事情をよく把握できていなかった責任を学校と教育委員会が負うことになるでしょう。
    これは何かといえば、あの和解のときの状況を、あらかじめ人工的にこしらえておくってことです。つまり、学校と教育委員会のずさんな調査にだまされていましたと越市長が涙の記者会見を開くまでもないってことです。
    かたや、市長は、早いうちから被害者家族と近しい関係を築いておけます。被害者から恨まれなければ社会の不評を買う程度も小さく、市長は御身安泰です。被害者側の便益に沿ってことを進めることだって、やろうと思えばできなくもありません。
    あのいじめ事件は市長にえらい悪知恵をつけたもんですねえ。

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  2. 職員です。いじめ対策推進室は、学校安全推進室および学校現場と初めから連携が取れていません。学校安全推進室と学校は連携の効果が上がっています。その分学校安全推進室の負担が大きくなっています。越市長がいじめ対策推進室を置いたのは教委に任せておけないからで、教委傘下の学校安全推進室を置いたのはあくまで下請けをさせるためでした。でも連携が取れていなければ下請けさえできません。その中で学校安全推進室は着々と仕事をしてきました。越市長のきもいりのいじめ対策室は子どもの悩みの相談室以上の仕事ができていません。それはいじめ対策の小さな一部分でしかないです。藤井議員の質問が優しかったので執行部は連携ができていないボロをださないですみました。越市長の看板政策のアピールのためにおカネをつぎ込んで効果のほどははっきりしません。わたしも有権者ですがしっかり本当の姿をみて考えなければいけないと声を大きくしたいです。越市長のやりかたに疑問といきどおりを感じています。連携不足のツケをはらうのは子どもと市民です。

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  3. 成果を客観的に厳しく評価する組織風土が市役所全体に不足していると思います。
    他人の成果に厳しい目を向けると自分もしっかり成果を上げなくてはならなくなりませんから、そこでなれあいが生じていませんでしょうか。

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  4. 学校関係者です。いじめだけでなく、子どもたちに起こった緊急事態に対し、迅速に学校に駆けつけ、大変慎重に、かつ丁寧に対応にあたって下さっているのが、学校安全推進室、現在の児童生徒支援課です。学校など関係者と密に連携をとられ、現場から信頼されています。
    一方、いじめ対策推進室は、いじめ事案について、学校や児童支援課から必要な情報を吸い上げるだけ吸い上げ、もっと言えば監視しに来られ、自分たちの動きや情報は提供しません。実際に解決のために動いているのは、学校や児童生徒支援課です。これではいじめ対策推進室は現場から、何をしに来るのか、二度手間、などと不信感を感じられても仕方ありません。挙句の果て、「連携しません」と断言する始末。
    いじめ対策推進室の存在意義、役割を明確にしてほしいものです。宣伝されていることは耳障りはいいですが、結局は学校や市教委の監視、そして学校以外の機関にも、相談したい子どもたちの相談の場であるなら、はっきりそう言って頂きたいです。むしろ後者だけの役割に徹して頂いてもよいのではないでしょうか?
    はっきり言って、児童生徒支援課の活躍で学校は十分に間に合っています。二重行政は税金の無駄使いです。

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